法務部員が、事業部門とともに契約書や事業スキームのレビューをする際によく出てくる言葉が「ブランドリスク」や「ブランド毀損リスク」です。
例えばスキームに法的にグレーな点があった場合に、「法的リスクがありますし、さらにブランド毀損のリスクもありますよ」とか。
この言葉、打合わせや会議で本当によく聞くのですが、どうも「法令遵守リスク」→「ブランドリスク」・「ブランド毀損リスク」→「大変!」と、言葉だけが一人歩きして、抽象的に使われているケースが多いように感じます。
抽象的な概念に留まっていては、リスクとリターンをしっかり判断することができません。何とかもっと具体的に、せめてリスクリターンの判断がしやすいように整理できないかと考えているのですが、今日はそれを頑張って言語化してみたいと思います。
ブランドってなんだろう
まずは「ブランド」という言葉の定義から考えてみたいと思います。ここでは、私がこれまで読んだ書籍中のブランドへの言及から、2点挙げます。
まずはこちら。
ブランディングとは、消費者の頭の中に「選ばれる必然」を作ること。
USFを劇的に変えたたった一つの考え方(森岡 毅 著)
ブランドそのものの定義ではないですが、要は消費者の頭の中の「選ばれる必然」こそがブランドということですね。
次にこちら。
「しかし、ここで視点を変えてください。ブランドがあるからこそ、お客様がその企業の商品を買ってくれ、売上が上がるのです。つまり、結果的に、フリーキャッシュフローが生まれるわけですね。そう思えば、企業価値には、そのブランド価値がちゃんと反映されていることがお分かりいただけると思います。ブランド価値が反映されているフリーキャッシュフローから算出された事業価値に、ブランド価値を加えてしまったのでは、それこそ、ダブルカウントになってしまうわけです。」
ざっくりわかるファイナンス(石野 雄一 著)
ブランド価値は、企業(事業)価値に含まれるのであって、別箇独立に存在するわけではないということです。これは非常に重要だと思っています。
言い換えると、「ブランドリスク」は、基本的に、「キャッシュフローに影響するリスク」と別で存在するものではありません。ブランドリスクを、「何か得体の知れないもの」として扱う理由は基本的にはありません。
- 「消費者の頭の中の選ばれる必然性」がブランド
- それは、「キャッシュフローに影響するリスク」と別個に存在するものではない
というのが、ここまでの整理です。
選ばれる必然性って何だろう?
「消費者の頭の中の選ばれる必然性」とは何でしょうか。
、、、といっても、ファストファッションブランドで買う靴下と、ハイブランドで買うジャケットでは、求めるものが違うのは、明らかですよね。
以下ではこれをもう少し構造的に整理します。
商品には、「コア」、「形態」、「付随機能」という要素があります。
「コア」は商品の機能的価値そのもの、「付帯」はパッケージ、品質、所有することでの差別化・満足感など、機能的価値プラスアルファの付加価値、「付随機能」はアフターサービスや保証などの、商品の付加的要素です。
これらのどの部分が「選ばれる必然性」になっているかは、商品により異なります。この点を考えるに際して、商品にはいくつかの分類の仕方があります。
耐久財 | すぐ消費されるもの | 食品や飲料、化粧品など |
非耐久財 | 消費せず、継続して使うもの | 服、家具、家電など |
サービス | 無形のサービス | 保険、運送、移動など |
に分ける考え方、
最寄品 | 日常頻繁に購入するもの | 食品、飲料など |
買い回り品 | 通常、いくつかの製品を比較検討して 買うもの | 服や家具など |
専門品 | 高級品、趣向品など、吟味して買うもの | 車、ブランド品など |
に分ける考え方などが代表的です。
先ほど、靴下とジャケットの例を出しましたが、
- 最寄品かつ耐久財(考え方によっては非耐久財)である靴下は、主にコアと安さで選ばれる
- 対して、専門品かつ耐久財であるハイブランドジャケットは主に付帯(差別化意識)で選ばれる
ということができます。
リーガルリスクとブランド毀損リスクはイコールではない
徐々にまとめに入っていきます。
何らかのリーガルリスクの顕在化時に、その商品の「選ばれる理由」が毀損してしまうリスクは、ブランド毀損リスク「も」高いと言えます。
例えば、「環境に優しい」ことが選ばれる理由として浸透し、成功している洗剤があったとします。この商品の製造過程において、もし産業廃棄物の処理が適切に行われていなかったとしたらどうでしょう。
法令に基づくペナルティを受けるにとどまらず、消費者に選ばれる理由の一つが消えてしまいかねないわけですから、ブランドに与える影響は非常に大きいといえます。商品の売上が減少し、将来のキャッシュフローに大きなダメージを負ってしまいかねません。
逆に、特定のリーガルリスクが顕在化しても、その商品の「選ばれる理由」に特に影響がない場合は、リーガルリスクは負っていてもブランド毀損リスクはそれほど高くないことになります。
例えば、価格が安く、身近なお店でどこでも買えることが選ばれる理由となっているお酒の商品があったとします。この商品のラベルのデザインが第三者の知的財産権を侵害していたとしても、侵害相手から損害賠償を受けるかもしれませんが、商品が選ばれる理由自体には大きな影響はなく、将来のキャッシュフローに継続的にダメージを負う可能性は低そうです。
もちろん、こういうのは起きない方が望ましいのは間違いないですが、少なくともリーガルリスクとブランド毀損リスクを混同すべきではなく、分けて考える必要がありますよね。
まとめ
法務の発する「ブランド毀損リスク」という言葉は、事業部門にとってみれば、こちらが思っている以上のインパクトを与えがちです(要は、必要以上にビビらせてしまいます)。
ビジネスはリスクを取ってリターンをあげる活動である以上、リスクについてミスリーディングを起こさない/起こさせないことを意識したいところ。
そのためには、丁寧に言語化して考えることが大事です。