優越的地位の濫用をリスクマップ的に検討できないか考えてみた

今日は独禁法の優越的地位の濫用について。

取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為は、独禁法上の優越的地位の濫用行為になります。実務上も、問題になりやすい類型です。

 

優越的地位の濫用の要件

優越的地位の濫用の要件は、「優越的地位」と「濫用行為」に分けられます。

 

優越的地位

優越的地位があるとは、公正取引委員会の「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」において、以下の状態を指すとされています。

甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。

公正取引委員会 優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方

行為者が相手方にとって優越的地位にあるかどうかは、相手方にとって取引先変更可能性が現実的であるかという点を主として、取引依存度、行為者の市場における地位などから判断されます。

 

濫用行為

次に濫用行為ですが、こちらは独占禁止法の条文内にも規定があります。

 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

独占禁止法第2条第9項

イやロはある程度具体的に見えますが、ハの範囲が非常に広いので、結局のところ相手方に不利益を与える行為は、広く文言の要件に含まれ得ることになります。

 

長澤哲也先生の「独禁法務の実践知」では、濫用行為の種類は①相手方にとって合理的であると認められる範囲を超えた負担を課す場合と②相手方に予期せぬ不利益を課す場合とされています。

不利益行為が「正常な商慣習に照らして不当」と評価されるのは、①相手方にとって合理的であると認められる範囲を超えた負担を貸す場合と、②相手方にあらかじめ計算できない(予期せぬ)不利益を貸す場合に分けることができる

長澤哲也「独禁法務の実践知」P366

  

これについて私は、①の合理的範囲を超えた負担を課すことは、さらに「新規取引において合理的範囲を超えた負担を課すこと」と「既存取引の条件を変更して合理的範囲を超えた負担を課すこと」の2つに分けられるのではないかと考えています。

同書の中で「従前から行われている取引の条件を相手方に不利益に改定する場合には、従前の取引が履行されてきたという事実を考慮しなければならない」とされているためです。

他方、従前から行われている取引の条件を相手方に不利益に改定する場合には、従前の取引が履行されてきたという事実を考慮しなければならない。当事者間で従前の取引がまがりなりにも履行されてきたことは、従前の取引条件が当事者双方にとって合理的なものであったことを一応推認させるものであり、それを相手方に不利益に改定する場合には、行為者側においてその合理性についての説明責任が生じる。

長澤哲也「独禁法務の実践知」P366

 

と、ここまでをまとめた図がこちらです。

 

 

ちなみに、優越的地位の濫用は、濫用行為があり相手方がこれを受け入れている場合には、優越的地位があったと判断される可能性が高いとされています。

そのため、「優越的地位があったか」→「濫用行為があったか」、という順ではなく、「濫用行為があったか」→「優越的地位を否定できるか」、という検討がなされることになります。

 

濫用行為をリスクマップ的に捉えてみる 

上記は、昨年から検討してまとめていたものです。

その後、濫用行為について、上位の濫用行為の類型と行為の程度感で二軸とって、リスクマップ的に捉えられないかと思い至り、以下の図を作ってみました。

 

 

横軸に濫用行為類型、縦軸に行為のレベル感を取っています。

仮に相手方にとって同程度の不利益性がある行為であっても、それが新規取引で条件として付されたのか、既存取引の条件を不利益改定して付されたのか、契約も何もなく全くの不意打ちなのかで、行為者に課される合理性の説明責任の程度が変わってくるであろうことから、このような捉え方ができるのではないかと考えています。

縦軸がちょっとざっくりなのはご容赦ください。

 

あくまで概念的に、「こういう捉え方できるんじゃないの」という思考実験ですが、実務の局面で検討を行うに際しては、有益な考え方ではないかと思います。