「どこでも社食」をきっかけに、サービスの構成について想像を巡らせてみる

どこでも社食、というサービスがあります。会社近隣の飲食店を社食として利用できる、というサービスです。

飲食店でアプリを見せて手続きすることで、飲食した従業員はお店にお金を払わなくてもよく、代金の精算は会社と飲食店間で済ませられる、というサービスです。一度使ってみましたが、これは確かに従業員としては楽で嬉しい。

 

面白いサービスだと思ったのと同時に、当事者間がどんな仕組みで動いているのか気になったので、色々と考えてみました。一種の思考実験です。

注:以下は、実際のサービスの仕組みを書いたわけではなく、またそれを目的とした記事でもありません。あくまで、サービスをとっかかりとした思考実験です。ご留意の程をお願いします。

 

定義

 

以下で使う用語の定義です。

サービス: 「どこでも社食」のサービス

従業員: サービスを利用して飲食する利用企業の従業員

利用企業: サービスを利用する企業

飲食店: サービスを利用する飲食店

運営企業: サービスを運営する企業

こういうの書かないと何か気持ち悪くなるあたり、法務に染まってるなあと思ったり。

 

誰が、どう飲食店にお金を支払うか

 

まずはこれ。

飲食した従業員は飲食店に直接お金を払わなくていいので、飲食店にお金を支払っているのは誰なのかという点。と言っても最終的にお金を支払うのは利用企業しかいないので、どんな流れ、順番でお金が支払われているのかを考えます。

ですが、その前に、まず考慮に入れたい事項があります。「支払いサイト」の問題です。

 

前提としての、「支払いサイト」

 

飲食店にとって、支払いサイトというのは死活問題です。

※ 詳しく知りたい方は別記事をご参照ください。https://w-transbiz.com/?p=116

 

本来なら現金取引だったのが売掛になってしまうわけですから、ここの支払いサイトが長くなると、飲食店によるサービス導入に大きなハードルになります。

現在、クレジットカードや決済代行利用時の店舗への支払いは半月〜1ヶ月後がスタンダードのようなので、飲食店への支払いサイトは、長くて1ヶ月程度が限度だろうという感触です。

私が運営企業の立場で考えるなら、導入してくれる飲食店を獲得するために、飲食店への支払いサイトは極力短くなるようにサービス設計をすると思います。

 

飲食店への支払われ方の選択肢

 

前置きが長くなりましたが、考えられる選択肢をあげてみます。選択肢は大きく分けて2通りありそうです。

① 利用企業から飲食店に直接お金が支払われる

② 運営企業を通じて飲食店にお金が支払われる

 

2の中の分類として、

②ー1 運営企業が飲食店にお金を先払いする

②−2 利用企業から運営企業にお金が支払われ、その後運営企業から飲食店にお金が支払われる。

が考えられそうです。

 

各選択肢ごとの検討

 

各選択肢ごとの検討に入ります。メリット・デメリットに加え、法務のブログなので、法律構成をどうデザインするかの検討にもチャレンジしてみます。

 

① 利用企業から飲食店に直接お金が支払われる

 

メリット:②−1と比べ運営企業の負担が少なく、②ー2に比べ支払いサイトが短縮化する。

デメリット:②と比べ、運営企業によるサービス利用手数料の取りっぱぐれが起きる可能性(②だと支払いルートの中に入るので、より手数料を回収しやすい)。

この選択肢をとる場合の法律構成

  1. 飲食店は、従業員による飲食時、利用企業による飲食代金の後払いを承諾。
  2. 利用企業は、従業員による飲食時、代金を特定の支払いサイトで飲食店に後払いすることを承諾。
  3. 上記1と2は、飲食店・利用企業がそれぞれサービスに加入すること、従業員がサービスにおいて特定の手続きを行うこと(飲食店で、サービスのアプリの画面で手続き)で、個々の従業員の飲食に対して成立する。
  4. 利用企業は、飲食代金を飲食店に一括支払い。

 

この場合、飲食の契約は誰と誰で成立するかという論点もありますが、

  • 利用企業と飲食店の間として、飲食店は従業員に飲食を提供(第三者のためにする契約)
  • 従業員と飲食店の間として、利用企業が第三者として弁済

があります。これはどちらでも良さそうです。

 

② 運営企業を通じて飲食店にお金が支払われる

 

②ー1 運営企業が飲食店にお金を先払いする

 

メリット:②ー2と比べ、飲食店にとっては、支払いサイトが短縮化するので導入ハードルが下がる。また①と比べると運営企業にとって手数料を回収しやすい。

デメリット:①や②ー1と比べ、運営企業と利用企業間に与信管理が発生する分ハードルが高い。

この選択肢をとる場合の法律構成

  1. 運営企業が飲食店に対して飲食代金を立替払いし利用企業に対して求償するか、飲食店から利用企業に対する債権の譲渡を受ける(飲食店に手数料を課す場合は、その分を控除)
  2. 利用企業は運営企業に代金を一括払い(利用企業に手数料を課す場合は、手数料分がアドオン)

これは、クレジットカード会社によるものと同じスキームです。ただし、割賦販売法の適用を外すために一括払いのみと想定しています。

この場合、飲食店による債権は利用企業に対するものである必要がありそうなので、飲食の契約は利用企業と飲食店の間で成立になると思われます。

 

②ー2 利用企業から運営企業にお金が支払われ、運営企業から飲食店にお金が支払われる。

 

メリット:②ー1と比べ、与信管理のデメリットを追わずに済む。手数料回収については、②ー1と同様。

デメリット:①や②ー1と比べ、支払いサイトが伸びやすい。飲食店にとって導入ハードルが高くなる。

この選択肢をとる場合の法律構成

  1. 飲食店は、従業員による飲食の代金を運営企業に収納委託し、受領権限を与える
  2. 利用企業は、飲食の代金を運営企業に支払委託
  3. 利用企業、ないし従業員と飲食店は、運営企業による収納代行を通じて代金を支払う旨の合意
  4. 上記1〜3は、飲食店・利用企業がそれぞれサービスに加入すること、そして従業員がサービスにおいて特定の手続きを行うこと(飲食店で、サービスのアプリの画面で手続き)で、個々の従業員の飲食に対して成立する
  5. 利用企業は、運営企業に対し代金を一括払い(利用企業に手数料を課す場合は、手数料分がアドオン)
  6. 運営企業は、飲食店に代金を一括払い(飲食店に手数料を課す場合は、その分を控除)

これは、いわゆる収納代行のスキームが使えますね。

 

いろいろな構成が考えられそうですが、メリットデメリットを勘案して選定された構成を実現させるための法的構成を考えるのも、企業法務の面白い点です。

 

手数料の話に若干触れていましたが、誰からお金をとるかというのも、サービスをデザインするにあたっては大事なポイント。長くなってきたのでこの点は後日の記事にします。