法務の仕事を内部統制との関係で整理する

法務部門(知財部門含む)のお仕事を、内部統制との関係で整理、言語化してみます。法務部門も内部統制の機能の一環なので、全体としての機能に対して日々の業務がどこに位置するかを知っておくのは有益です。

内部統制とは

内部統制とは、出資者等などから資産を託された経営者が、以下の4つの目的が達成されているという合理的な保証を得るためのプロセスを言います。

内部統制の責任者は社長をはじめとする経営陣。経営陣から雇われた従業員は、与えられた権限の範囲で、これらの活動を行なっていきます。法務と言わず、企業における活動は、大半がこの内部統制のための活動になります。

  1. 業務の有効性・効率性が確保されていること
  2. 事業活動に関わる法令等の遵守
  3. 資産の保全
  4. 財務報告の信頼性

※ 金融庁 「内部統制の基本的枠組み」より。

簡単に言い直すと、

  1. 企業活動には目的があるので、その目的達成のために資源を配分し、(業務の有効性・効率性確保)
  2. 守るべきルールはしっかり守りながら、(法令等遵守)
  3. 正しく資産を増やしていき、(資産の保全)
  4. その結果を正確にステークホルダーに報告しましょう(財務報告の信頼性)

ということです。

法務部門の機能

次に、一般的に法務部門が持っている、日々行なっている仕事をざっと挙げてみます。これは企業が置かれる環境によって内容やウェイトが異なってくるので、あくまで一例として考えてください。ここに挙げた以外の仕事も、もちろんあると思います。

事業法務

  • 契約書作成、レビュー
  • 契約等交渉
  • 事業スキームの法的検討
  • 各種規制への対応
  • データ規制対応

機関法務

  • 株主総会、取締役会運営
  • 株式実務
  • M&A等対応

知的財産

  • 知的財産取得、管理
  • 知的財産のクリアランス
  • 知的財産侵害に対する権利行使

紛争対応

  • 各種紛争対応

マネージャー業務

  • 採用活動
  • 人員配置
  • メンバー教育

内部統制の目的へ、法務機能を当てはめる

では、上で書いた内部統制の4つの目的に、法務の機能をザクっと当てはめてみましょう。

業務の有効性・効率性確保
・採用活動
・人員配置
・メンバー教育
法令等の遵守
・事業スキームの法的検討
・法令等規制対応
・データ規制対応
・知的財産クリアランス
資産の保全
・契約書作成、レビュー
・契約等交渉
・株式実務
・M&A等対応
・知的財産取得、管理
・知的財産侵害に対する権利行使
・紛争対応
財務報告の信頼性
・株主総会、取締役会運営

一応の分類をしてみましたが、こと法務機能という観点だと、法令等遵守と資産の保全は、かなりの分野で重なりがあります。

例えば、「資産の保全」に分類した契約書作成・レビューの局面で、下請法など法令等遵守の観点が入ってくることはよくありますし、同じく資産の保全に分類している「M&A等対応」で、企業の規模が大きくなれば独占禁止法など、法令等遵守の観点が入ってきます。この2つの目的の間での法務機能は、相当重なりがあると理解しておいたほうが良さそうです。(なので、「これはこっちじゃない?」みたいなのがあると思いますが、暖かい目で見てやってください;)

ポイントは、法務機能の大半は、「法令等遵守」と「資産の保全」に落ちていくということ、そして、「資産の保全」の目的に資する機能が、「法令等遵守」と同等かそれ以上に多いということ。

結論自体に目新しい点はないのですが、内部統制の観点から見たとき、企業における法務部門というのはこういう組織体です。

ガーディアン機能とパートナー機能

いわゆる「ガーディアン機能」と「パートナー機能」についても補足しておきます。(「ガーディアン機能」「パートナー機能」というワードは、国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書から持ってきました。)

一見すると「法令等遵守」の局面がガーディアン機能、「資産の保全」の局面がパートナー機能をそれぞれ発揮する局面と思われがちですが、報告書の内容でも書かれている通り、必ずしもそれだけではありません。法令等遵守の局面でパートナー機能が、逆に資産の保全の局面でガーディアン機能が必要になる場合があります。

ガーディアン機能とパートナー機能を場合によって使い分けて、法令等遵守と資産の保全に資するというのが、内部統制との関係で整理した時の法務部門の主要な役割になってきます。

企業法務部員(バックオフィスも)の目標設定の考え方

法務に限らず、バックオフィスというのは目標設定に苦労する部署です。営業のように明確な数字を設定できるわけではないので、何をすれば全社貢献につながるのかが見えづらい。マネージャーとしてメンバーにどんな軸を与えてあげるべきかが見えづらく、同じような悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。

 

私の経験上、バックオフィスの目標設定の軸は、「業務の改善!改革!」的な方向に行くか、「伸びている〇〇ビジネスをサポート!」的な方向に行くケースが多いと感じますが、これはどっちもイケてない目標です。前者は手段の目的化ですし、後者は「伸びている〇〇ビジネス」に直接関われない、もしくは関わる機会の少ないメンバーにとってはモチベーションが上がりません。

私自身経験あるんですが、こういうマネージャーに当たるとモチベーションの置き所が非常に難しくなります。。

 

法務(バックオフィス)の目標設定の軸

 

私は、メンバーの目標設定の軸を、以下の3点で考えています。

 

① 日常発生する業務をしっかり回すこと

② 日常業務を改善すること

③ 自身の能力を上げ、できることを増やすこと

 

①の「日常業務」は、日頃の契約審査や法律相談への回答などです。ここに評価軸としての価値を認めないマネージャーもいると思いますが、これが回らないと会社としての業務に支障が出るものである以上、私はここにも価値を認めてあげたい派です。

②は業務フローの改善や、研修・啓蒙による各部の知見アップ、マニュアル化等による業務効率化を指します。「改善!改革!」に対して若干ネガティブ目なことを書いていましたが、メンバーの時間が有限である以上、これが重要であることに疑いはありません。盲目的に同じ業務を繰り返すことは、当然良いことではありません。

③は、個々人として学習を積み、それまでできていなかった部分をできるようにする/なることを意図しています。例えば、英語が得意でなかったメンバーが英語を学び英文契約のレビューができるようになるとか、特定の部署・ビジネス・分野(例:データ規制)への知見がなかったメンバーが学習しながら意識的に仕事を取りに行き、その部署やビジネスに案件を回せるようになるとか、そんなイメージです。

 

スタートアップなどであれば、日常の業務が新しいことばかりで、①をこなすということが即ち③を兼ねているというケースもあるでしょう(すごく羨ましい環境です)。ただ、その場合であっても、新しい分野を取れているのかどうか(今やっているのが①だけなのか、①兼③の状態になっているのか)というのは、意識的に見ていくべきと思います。

 

この考え方の究極的な目的は、③につなげていくこと、そのための時間を確保することです。

 

いかに組織で仕事をするとはいえ、法務は専門職です。個々の能力の向上なくして、チームの力は上がりません。アマチュアチームのチームワークがどれだけ良くても、プロのチームには絶対勝てないのです。一人一人が自己の能力をあげていくことが絶対に必要になります。

①で給与に対する価値を提供しつつ、②で時間を作り出し、いかに③につなげていくか(そのための時間を作り出していくか)がこの考え方のコンセプトであり、目的になります。各メンバーのキャリアにとっても好影響なので、組織とメンバーがWin-Winの関係になれるのもポイントです。

 

目標設定の軸に対する評価の比重

 

この考え方のもとでの評価の比重は、①:②:③で1:1:1になるかなと考えています。全部できていれば高評価、2つできていれば中評価、1つであればギリギリ及第点(S、A、B評価の場合、全部できていればS、2つでA、1つでB)という考え方です。

 

ただし、①ができていないという状態は厳しい。

①は今の給与水準で最低限こなすべき業務であるはずなので、他の2つができていても、①ができていない場合はその時点でマイナス評価原則にならざるを得ません。営業でいうと、売上取れない営業マンということになるので、他にどんなに光る点があってもやはり難しいです。

正確には、①は必ず満たすべき基準で、そこに②、③のうち1つが乗ってくれば中評価、2つが乗ってくれば高評価、という表現の方が正しいですね。

 

一方で、各メンバーが業務に割く時間が①:②:③で1:1:1になるかというと、なかなかそれは難しいのが実情です。どうしても、①に割く時間が60%程度にはなってしまいがちですが、これはもう仕方ないものと考えるしかありません。

 

様々なご意見ある点かと思いますが、何かの参考になれば幸いです。

なお、マネージャーの目標軸はまた違うお話になります。