映像作品などのグッズ化(MD化)許諾における、知的財産権の保証条項は「当然」か?

映像作品は、映像としての利用に限らず、グッズ化等で利用されるケースがあります。この場合、映像の権利元から外部の会社にライセンスがなされることが大半と思います。

 

ライセンスの際にしばしば見られるのが、第三者の知的財産権の非侵害保証です。「被許諾者が、利用対象となる映像作品を、ライセンスに基づきグッズ化利用することが、第三者の知的財産権を侵害しない」などの条項のことです。

当然の規定に思われるかもしれませんが、これは軽々に合意できる条項ではありません。実務の場では、しっかり交渉ポイントにすべきです。

 

利用許諾の本質は

そもそも、著作権や商標権の利用許諾の本質は、「許諾者が被許諾者による利用対して、知的財産権を行使しないこと」です。「その利用が第三者の知的財産権を侵害しないこと」は、法的には利用許諾に必要不可欠な要素ではなく、追加でつける条件の一つに過ぎません。

 

映像作品の商標権クリアランス

その上で、ここでは主に、映像作品と商標権について考えてみましょう。

 

映像作品を制作するにあたって、商標権のクリアランスはどこまでなされているものでしょうか。作品のタイトルくらいは、通常クリアランスがなされていることが多いでしょう。

でも、それ以外の要素はどうでしょうか。

通常、映像作品の登場人物の名前など、作品内の各要素の名称に関する商標権クリアランスは、「当然になされているもの」ではありません。映像作品内で単語が出てきても、ふつうは「商標としての使用」に該当しませんので、クリアランスの必要性がありません。

 

グッズ化するときに起きること

ところが、その要素を切り取って「商品」として世に出す場合、名称が商品名に使われる場合があります、これは「商標としての使用」に該当します。

映像としての利用の限度では商標権を気にする必要がなかったものが、利用の態様が変わることで、商標権のケアの必要性が発生するわけです。

 

これを何も考えずフリーハンドで保証することは、少なくとも許諾者側にとっては非常に危険です。

映像作品のグッズ化を許諾するということは、許諾者から見ればアウトソーシングの一貫ですので、自社の事業と比べ一般的には利幅が小さいもの。にも関わらず負うリスクが大きいということになれば、何のためにそれを行うのかわからなくなってきます。

 

一方で、被許諾者から見れば、安くない利用料を払って作品を使わせてもらうわけですから、第三者の知的財産権の侵害がないことは当然期待したくなります。

ここの利害対立は、突っ込んで考えていくとなかなか難しいものがあります。

 

考えられる落としどころ

映像作品利用許諾の際の第三者知的財産権非保証は、許諾者と被許諾者の間のリスク分担の問題に行き着きます。その観点で考えると、いくつかの落とし所が見えてきます。

 

侵害発生時の損害賠償金額にキャップをつける

まず考えられるのは、リスク顕在化の場合の損害賠償金額に上限をつけること。これだと、少なくとも許諾者側のリスクは一定の上限がかかります。

被許諾者側のリスクには上限がかかりませんが、グッズ化が被許諾者側にイニシアチブがあるビジネスであることを考えると、このリスクはどちらかといえば被許諾者で取るのが落としどころとしては妥当でしょう。

 

利用できる名称や要素の限定を厳しく絞る

これも、落としどころの一つです。

利用できる要素の限定は通常行うものですが、加えて商品名や広告等で使用できる名称なども契約上で細かく制限を加えてしまい、その範囲での利用に限り、許諾者側で第三者の知的財産権非侵害を保証する、という方法です。

予め定めた範囲でのクリアランスを行っておけば第三者の知的財産権侵害のリスクは相当程度軽減されるため、一見安心感のある方法です。

反面、グッズのマーケティングに多大な制限が発生してしまうというデメリットがあります。

 

まとめ

以上、映像作品のグッズ化と契約上の第三者の知的財産権保証規定についてまとめてみました。許諾者、被許諾者とも軽く流してしまうかもしれない規定ですが、実務に落として考えると論点の多い規定であることに気づくかと思います。

 

ちなみに余談ですが、実はこの観点は、日本の会社より欧米の会社との交渉の方が難航しがちです。商標権は登録主義と使用主義があり、使用主義が多い欧米法制に馴染んだ会社だと、商標権クリアランスのハードルがより理解しづらいようです。

契約交渉における「支払いサイト」の重要性をワーキングキャピタルの観点から

日々の契約レビューと交渉では、いくつもの論点や交渉事項が発生します。

  • 表明保証の内容は?
  • 契約不適合責任の請求可能期間は?
  • 損害賠償に上限はあるのか?
  • 契約解除条項はあるのか?その内容は?

など、

 

その中で、法務目線ではつい軽視してしまいがちなのが支払いサイトです。恥ずかしながら、かつての私もそうでした。

 

支払いサイトと、ワーキングキャピタル

支払いサイトの影響力を理解するには、ワーキングキャピタル(WC)の理解が要ります。WCとは運転資金のことで、ざっくり「棚卸資産+売上債権−仕入債務」で計算します。

 

例1 売上2ヶ月、支払い1ヶ月

上の図だと、より分かりやすいと思います。

 

  • 売上100に対して費用が80
  • 売上債権は2ヶ月後に支払い、仕入債務は1ヶ月後に支払い
  • 毎月売上が1.5倍成長

という前提で、実際のキャッシュフロー(CF)を整理したものです。

 

利益は上がっていますが、(CF)はマイナスになっていますよね。これは、支払いサイトの差により、各月に支払う仕入債務が、その月に受領する売上債権より大きくなっているからです。

売上が増加するにつれて、キャッシュフローのマイナスが大きくなっていきます。これがWCです。マイナス分は資金調達などで補填しなければなりません。

成長企業では、WCのマネジメントが重要になります。ここをしくじると黒字倒産が起こります。

 

例2 売上、支払い共に1ヶ月

では次に、上の図を見てください。

 

  • 売上100に対して費用が80
  • 毎月売上が1.5倍成長

は変わらず、仕入債務と売上債権の支払いサイトを両方1ヶ月にしたものです。たったこれだけで、キャッシュフローが劇的に改善しているのがわかるかと思います。

 

例3 売上3ヶ月、支払い1ヶ月

では次に、上の図はどうでしょうか。

 

  • 売上100に対して費用が80
  • 毎月売上が1.5倍成長

は変わらず、仕入債務の支払いサイトを1ヶ月に対して売上債権の支払いサイトが3ヶ月になったものです。

キャッシュフローのマイナスが非常に大きいですね。WCのマネジメントがしっかりできなければ黒字倒産の可能性が高くなってきます。

 

契約条件における支払いが「当月」なのか、「翌月」なのか、「翌々月」なのか、文字にしてしまうと数文字ですが、これだけの差が出てくるのです。

別の言い方をすれば、売上債権の支払いサイトを1ヶ月短くすることは、売上金額分のキャッシュを1ヶ月間無利子で調達するのと同じことです。(逆に1ヶ月伸ばすことは、無利子で1ヶ月お金を貸すのと同じことです)

 

まとめ

支払いサイトのインパクトが大きいという点、お分かりいただけたのではないでしょうか。

 

とある会社は、この支払いスパンの改善・ワーキングキャピタルの改善により、外部からの資金調達を最小限に留めた上で巨額の手元キャッシュを補填し、大きな買収案件につなげた例を聞いたことがあります。

契約交渉において有利な支払いサイトが取れるなら、表明保証条項の一つや二つ、軽く差し出したくなりますよね(笑)

 

法務はバックオフィスなので実際にお金を稼ぐことはできない、また現場のオペレーションレベルではできることに限界がある、などよく聞きます。でも、決してそうではない、むしろオペレーションレベルの契約交渉で劇的な違いが発生することの例です。

法務というよりアカウンティングの知識ですが、周辺分野の知識をつけることでより有効な仕事ができるようになります。

景品表示法をAIDMAモデルから考える

みんな大好き(?)景品表示法。

BtoCの事業をやっている会社だと、各種キャンペーンの相談が法務に入る機会は多いのではないでしょうか。

 

景品類をつけるキャンペーンにおける法務部門の関わり方は、

  • それが一般懸賞なのか総付なのか、それともオープン懸賞なのか、
  • 一般懸賞や総付景品ならいくらが景品類をつけられるのか、
  • 今企画しているキャンペーン内容が上限額に収まるのか、

というレビューが中心になると思います。

 

が、この手のキャンペーンは、マーケティングの一環として行われるものなので、マーケティングの基礎的な知識持っていると、より相談者の立場に立った対応ができます。

 

AIDMAの法則

マーケティングの用語に、AIDMAモデルというものがあります。消費者の購買決定を説明するモデルの一つです。

  • A = Attention(認知)
  • I = Interest(興味)
  • D = Desire(欲求)
  • M = Memory(記憶)
  • A = Action(行動)

要は、消費者は特定の商品/サービスに対していきなり「買う」という意思決定をするのではなく、段階を踏んで「買う」ところまで達する、ということを示しています。

これ自体は古くからあるモデルで、今はAISASモデル(インターネットでの購買活動を表すモデル)とか、リピーター獲得まで取り込んだモデルとか様々あるのですが、なにぶん私は深く語れるほどのマーケティング知識を持っているわけではないので、ここでは割愛します。

 

AIDMAモデルを使ったマーケティングの検証方法として一般的なのが、消費者がどの段階で離脱しているのかを検証して、そのポイントに対する打ち手を考えるというものです。

例えば、

  • 商品が認知はされているけど消費者の記憶に残るところまで行ってないのか、
  • 消費者の記憶には残っているけど最後の「買う」に至っていないのか
  • はたまた、そもそも商品認知自体がされていないのか

という検証をアンケートなどで行い、そのギャップを埋めるための打ち手を考える、ということですね。

 

超概略ですが、この図だと、消費者の記憶と行動の間での離脱率が高いので、打ち手はその点に対して行うべきです。

 

他方、この図だと認知はされているけど興味を持たれていないことになるので、その点に対して打ち手を打つ必要があります。

 

景品類をつけるキャンペーンも、これらの打ち手の一つです。

 

この景品類の目的、なんでしたっけ?

さて、景品表示法の相談を受けていると、景品類の目的があいまいだな、と感じる相談に対応することが結構あります。(もちろんプロのマーケターの方であればそんなことは起こらないのですがが、日本の会社だとキャンペーンを考える方が全員マーケティングに明るいとは限りませんし、実際そうではないと感じます)。

 

例えば、「商品の売れ行きがイマイチなので、豪華なおまけをつけるキャンペーンをやって起死回生をはかりたいです!」みたいなケースです。(もうお察しの通り、「豪華なおまけ」ですから、たいていは総付景品規制の上限額を超えています。)

「購入者の中から抽選で何名かに超豪華なプレゼントを提供したいです!」というケースもよくあります。「超豪華なプレゼント」なので、一般懸賞規制の上限を(以下略)。

 

このようなキャンペーンの目的、究極的には「商品を売りたい」です。でも、AIDMAモデルで考えたときに、どこを埋めるために行うものなのか、意識されているでしょうか。

 

キャンペーン内容と目的が一致していないケースって?

総付景品のキャンペーンを行う主な理由は、基本的には「最後のひと押し」です。

商品認知が十分でない段階で総付景品キャンペーンを行っても、十分な効果が得られない可能性が高いです。上限が低額なので、キャンペーンが出せるインパクトに限界があるからです。商品認知が十分でない状況であれば、オープン懸賞でインパクトのあるキャンペーンを行った方が、効果が出る可能性が高いです。

 

結構前ですが、某缶コーヒーのキャンペーンで「1000万円分のサービスが受けられる機能が入った携帯電話」のプレゼントキャンペーンがありました。もちろんオープン懸賞で行ってたものですが、私に関していえばいまだに覚えているくらいなので、キャンペーンの効果は十分にあったと言えます。

 

逆に、商品認知が十分あるのにオープン懸賞のキャンペーンを打っても、商品の購入にはつながりません。これ、法務担当としては、オープン懸賞だからOKですで流してしまうケースですが、目的が怪しいなと思ったら踏み込んだアドバイスをしてあげられるとベターです。

 

目的と打ち手がそもそもずれているキャンペーンに対して、「できる方法」をいくら考えても、それは高確率で時間のムダですし、キャンペーンに要するコストのムダです。企画自体の再考をすべきですし、法務としてもそういうアドバイスができるようになるべきでしょう。

 

まとめ

法務の役割には、ビジネスの推進も含まれます。法規制の知識だけでなく、周辺分野についても少しの知識を持てば、仕事の幅も広がります。何より、仕事をしていてそのほうが面白いですよね。