日々の契約レビューと交渉では、いくつもの論点や交渉事項が発生します。
- 表明保証の内容は?
- 契約不適合責任の請求可能期間は?
- 損害賠償に上限はあるのか?
- 契約解除条項はあるのか?その内容は?
など、
その中で、法務目線ではつい軽視してしまいがちなのが支払いサイトです。恥ずかしながら、かつての私もそうでした。
支払いサイトと、ワーキングキャピタル
支払いサイトの影響力を理解するには、ワーキングキャピタル(WC)の理解が要ります。WCとは運転資金のことで、ざっくり「棚卸資産+売上債権−仕入債務」で計算します。
例1 売上2ヶ月、支払い1ヶ月
上の図だと、より分かりやすいと思います。
- 売上100に対して費用が80
- 売上債権は2ヶ月後に支払い、仕入債務は1ヶ月後に支払い
- 毎月売上が1.5倍成長
という前提で、実際のキャッシュフロー(CF)を整理したものです。
利益は上がっていますが、(CF)はマイナスになっていますよね。これは、支払いサイトの差により、各月に支払う仕入債務が、その月に受領する売上債権より大きくなっているからです。
売上が増加するにつれて、キャッシュフローのマイナスが大きくなっていきます。これがWCです。マイナス分は資金調達などで補填しなければなりません。
成長企業では、WCのマネジメントが重要になります。ここをしくじると黒字倒産が起こります。
例2 売上、支払い共に1ヶ月
では次に、上の図を見てください。
- 売上100に対して費用が80
- 毎月売上が1.5倍成長
は変わらず、仕入債務と売上債権の支払いサイトを両方1ヶ月にしたものです。たったこれだけで、キャッシュフローが劇的に改善しているのがわかるかと思います。
例3 売上3ヶ月、支払い1ヶ月
では次に、上の図はどうでしょうか。
- 売上100に対して費用が80
- 毎月売上が1.5倍成長
は変わらず、仕入債務の支払いサイトを1ヶ月に対して売上債権の支払いサイトが3ヶ月になったものです。
キャッシュフローのマイナスが非常に大きいですね。WCのマネジメントがしっかりできなければ黒字倒産の可能性が高くなってきます。
契約条件における支払いが「当月」なのか、「翌月」なのか、「翌々月」なのか、文字にしてしまうと数文字ですが、これだけの差が出てくるのです。
別の言い方をすれば、売上債権の支払いサイトを1ヶ月短くすることは、売上金額分のキャッシュを1ヶ月間無利子で調達するのと同じことです。(逆に1ヶ月伸ばすことは、無利子で1ヶ月お金を貸すのと同じことです)
まとめ
支払いサイトのインパクトが大きいという点、お分かりいただけたのではないでしょうか。
とある会社は、この支払いスパンの改善・ワーキングキャピタルの改善により、外部からの資金調達を最小限に留めた上で巨額の手元キャッシュを補填し、大きな買収案件につなげた例を聞いたことがあります。
契約交渉において有利な支払いサイトが取れるなら、表明保証条項の一つや二つ、軽く差し出したくなりますよね(笑)
法務はバックオフィスなので実際にお金を稼ぐことはできない、また現場のオペレーションレベルではできることに限界がある、などよく聞きます。でも、決してそうではない、むしろオペレーションレベルの契約交渉で劇的な違いが発生することの例です。
法務というよりアカウンティングの知識ですが、周辺分野の知識をつけることでより有効な仕事ができるようになります。