優越的地位の濫用をリスクマップ的に検討できないか考えてみた

今日は独禁法の優越的地位の濫用について。

取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為は、独禁法上の優越的地位の濫用行為になります。実務上も、問題になりやすい類型です。

 

優越的地位の濫用の要件

優越的地位の濫用の要件は、「優越的地位」と「濫用行為」に分けられます。

 

優越的地位

優越的地位があるとは、公正取引委員会の「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」において、以下の状態を指すとされています。

甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。

公正取引委員会 優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方

行為者が相手方にとって優越的地位にあるかどうかは、相手方にとって取引先変更可能性が現実的であるかという点を主として、取引依存度、行為者の市場における地位などから判断されます。

 

濫用行為

次に濫用行為ですが、こちらは独占禁止法の条文内にも規定があります。

 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

独占禁止法第2条第9項

イやロはある程度具体的に見えますが、ハの範囲が非常に広いので、結局のところ相手方に不利益を与える行為は、広く文言の要件に含まれ得ることになります。

 

長澤哲也先生の「独禁法務の実践知」では、濫用行為の種類は①相手方にとって合理的であると認められる範囲を超えた負担を課す場合と②相手方に予期せぬ不利益を課す場合とされています。

不利益行為が「正常な商慣習に照らして不当」と評価されるのは、①相手方にとって合理的であると認められる範囲を超えた負担を貸す場合と、②相手方にあらかじめ計算できない(予期せぬ)不利益を貸す場合に分けることができる

長澤哲也「独禁法務の実践知」P366

  

これについて私は、①の合理的範囲を超えた負担を課すことは、さらに「新規取引において合理的範囲を超えた負担を課すこと」と「既存取引の条件を変更して合理的範囲を超えた負担を課すこと」の2つに分けられるのではないかと考えています。

同書の中で「従前から行われている取引の条件を相手方に不利益に改定する場合には、従前の取引が履行されてきたという事実を考慮しなければならない」とされているためです。

他方、従前から行われている取引の条件を相手方に不利益に改定する場合には、従前の取引が履行されてきたという事実を考慮しなければならない。当事者間で従前の取引がまがりなりにも履行されてきたことは、従前の取引条件が当事者双方にとって合理的なものであったことを一応推認させるものであり、それを相手方に不利益に改定する場合には、行為者側においてその合理性についての説明責任が生じる。

長澤哲也「独禁法務の実践知」P366

 

と、ここまでをまとめた図がこちらです。

 

 

ちなみに、優越的地位の濫用は、濫用行為があり相手方がこれを受け入れている場合には、優越的地位があったと判断される可能性が高いとされています。

そのため、「優越的地位があったか」→「濫用行為があったか」、という順ではなく、「濫用行為があったか」→「優越的地位を否定できるか」、という検討がなされることになります。

 

濫用行為をリスクマップ的に捉えてみる 

上記は、昨年から検討してまとめていたものです。

その後、濫用行為について、上位の濫用行為の類型と行為の程度感で二軸とって、リスクマップ的に捉えられないかと思い至り、以下の図を作ってみました。

 

 

横軸に濫用行為類型、縦軸に行為のレベル感を取っています。

仮に相手方にとって同程度の不利益性がある行為であっても、それが新規取引で条件として付されたのか、既存取引の条件を不利益改定して付されたのか、契約も何もなく全くの不意打ちなのかで、行為者に課される合理性の説明責任の程度が変わってくるであろうことから、このような捉え方ができるのではないかと考えています。

縦軸がちょっとざっくりなのはご容赦ください。

 

あくまで概念的に、「こういう捉え方できるんじゃないの」という思考実験ですが、実務の局面で検討を行うに際しては、有益な考え方ではないかと思います。

 

トラブル対応の法務

法務の仕事とトラブル対応は切っても切り離せません。法務なら、誰しもが一度は経験したことがある仕事ではないでしょうか(ある意味、腕の見せ所でもあります)。

トラブル対応時の動き方はケースにより様々、、、なのですが、所属企業や局面にかかわらず使える、ある程度共通の考え方、検討の仕方があると考えてます。

 

法務のトラブル対応時のフレームワーク

以下のフレームワークは、法務として法的トラブルを分析するときに、汎用的に使えます。

  1. 現状の定義
  2. 現状に対する法的評価(この中で法的三段論法を使う)
  3. 想定される最大のリスク、サンクション
  4. 考えられる是正対応

 

まず現状を定義し、それに対する法的評価をします。法的評価をする際の基本は法的三段論法なので、この法的評価のところの下位要素として、例の「規範」、「当てはめ」、「結論」があります。

法的評価を行ったら、次はリスクの評価。法務にとって「法的トラブル」そのものがオオゴトに感じるかもしれませんが、ビジネスにおいて重要なのは「最悪、何が起きるか」です。これを明確にしないと、ビジネスサイドとのコミュニケーションが進みません。

最後に考えられる是正対応をまとめます。是正対応には、選択の余地がないような「マスト対応」、マストではないものの、取れればよりベターな「選択的対応」と、いくつかの選択肢が発生することが多いです。「松」「竹」「梅」案とか、よく言われますね。

 

法的トラブル分析において重要なのは、これらを「一通り」、「もれなく」行うことです。

しばしば人により事例により、法的評価から最大リスク分析を飛ばして是正対応に飛んでしまったり、最大リスク分析するところで検討を止めてしまい是正対応が出てこなかったりします。これが当たり前にできている人、意外なほど少ない印象です。

なお、これを人に伝える際は、PREPの要領で先に結論を簡易にまとめられるとベターです。

 

法務のトラブル対応時の留意点

さて、法務のトラブル考察ついでに、もういくつか。

 

法務がトラブル対応にあたる際に、非常に重要なことがあります。それは、「事実と解釈をはっきり分ける」こと。トラブル対応時は、これが平時よりさらに重要になります。

 

事実と解釈の混同は、最悪のケースでは上司や、事業部や、経営陣の判断を誤らせます。そして、有事にはこれが命取りになります。私自身、ミスやトラブルに関する報告を受けていて、一番ゲンナリするのがこれ。報告を受ける側としても、限られた時間の中でそれらを切り分けてあげる、という余計な一手間が発生してしまうためです。

逆に、若手でもここを明確に切り分けて報告ができる方を見ると、「仕事ができる」印象を持ちます。

 

自分のミスが原因でトラブルになった時は、、、

最後に、誰しもミスはあるもの。自分のミスでトラブルを起こしてしまうことも、仕事をしていればあります。あの、全身の血が凍るような瞬間、何度味わってもイヤなものです。。

そんなときに心に留めておきたい考え方を二つほど。私の経験からご紹介してこの記事を締めます。

 

まず一つ、その瞬間にどんなにヤバイと思ったトラブルでも、後から振り返れば大抵のものは「笑い話」になること。

そして、周りは、「ミスを起こした」という事実そのものより、「ミスに対してどう対応したか」ということの方をよく見ているということ。

 

もちろんミスがないに越したことはないですが、ミスに対する事後の対応は、結果的に自身の評価をあげる場合だってあります。仕事を任せる方から見ると、ミスを隠して何事もなかったかのように振る舞うより、ミスを即座に報告して、適切真摯に対応をしてくれる方が、やっぱり何倍も安心感がありますし、大事な仕事も任せたくなるものなんですよね。

 

コロナ禍で法務マンが転職するということ

今回の記事は、初めて参加させていただいた#裏legalACの記事です。ちざたまごさんからのバトンです。

初の参加ということでテーマ悩んだのですが、今年自分が書くとしたらこれしかなかろうと。私、今年末に転職してます。法務職がコロナ化で新しい組織にジョインしてみた結果、所感を書くことにしました!

 

法務が転職するということ

 

法務というのは、日々正解のない仕事に取り組む仕事です。その際に拠り所になるのは、法律に関するナレッジだけではありません。その組織で重ねた経験というのが、大きくモノをいいます。

私たち法務は、「組織を問わず使えるナレッジ」と、「組織内での経験で積み重ねた何か」を武器として日々業務を行っているわけですが、転職により後者は失われます。

この「組織内での経験で積み重ねた何か」をさらに分類すると二通りあり、①「組織に対する暗黙知の積み重ね」②「組織における信頼残高の積み重ね」であると考えてます(というか、転職前後のタイミングで改めて言語化してみて実感するに至りました)。

①「組織に対する暗黙知の積み重ね」とは、組織における空気感・人間関係・キーマン・ルール・コンテクスト・仕事の進め方などの理解がこれにあたります。一つの組織である程度年数を重ねると、認識していなくてもこれらはついてきますが、新しい組織では一つ一つ確認また確認の繰り返しでその度手を止めなければなりません。もう、毎度毎度「左右を確認して手を挙げて横断歩道を渡ってる」ような状態になります。

②「組織における信頼残高の積み重ね」は読んでそのまま、貢献を続けることでの信頼感です。これも重要で、これがあるから一定程度自分の中での検討や対外的な説明を端折ることができ、自分のリソースの選択と集中をしやすくなります。

転職をすると、これらは一旦ゼロからのスタートになります。従って、どれだけ法的知識があっても、業務における判断の大胆さ、スピード感というのは大きく、本当に大きく失われます。もう当たり前のことなんですが、なぜそうなるかをちゃんと言語化して理解するまでは結構凹みました。あれ、俺こんなに仕事できない人だったっけ、みたいな。

 

あと、地味に苦しいのが組織によって業務ツールが全然違っていることね。バックオフィスだからこそ、長時間触ることになるツールって大事。メールからチャットからストレージから全部変わってしまい、ツールの設定や慣れる作業で日々の時間が取られていくのは結構キツかった。前述の点と合わせて、最初は自己嫌悪が凄かったです。

 

コロナ渦で転職すると言うこと

 

会社にもよりますが、今の世の中多くの企業がリモートワークに舵を切っています。私の転職先も大半の人がリモートワーク中のため、自分の部署、他の部署ともオフィスに人がいません。もちろん時期的に歓送迎会の実施も難しい。

この状況だと、平時に比べ、組織に対する暗黙知は得づらくなります。パッと隣の席の人に聞けばよかったことを聞くためのアクション(メール打ったり、チャット打ったり)が増え、組織のコンテクストや空気感も把握しづらいです。暗黙知って座学やマニュアルだけで学ぶものではなく、オフィスで周囲から聞こえてくる立ち話に聞き耳立てたり、食事や飲み会のフランクなコミュニケーションで培っていく部分も大きいんですが、それがない(もしくは大きく減る)というのが苦しいポイント。

暗黙知が得づらいと、信頼残高の獲得スピードにも影響します。

今ではイケてない文脈で語られることが多い「シマごとに固まった座席」、「喫煙室での雑談」、「飲みニュケーション」、人が組織に馴染むという意味では、あれはあれで一定の価値はあったんだなーと遠い目で考えてしまいますね。

 

法務がコロナ渦で転職するということ

 

まとめると、コロナ化での法務の転職は、暗黙知や信頼残高が重要な職種が、それを得づらい環境で転職するということなので、キャッチアップには結構なエネルギーが取られます(解ってたことだったけども)。

ただ、上記で「平時」と書きましたが、これからの時代の働き方がコロナ前に戻るとは全く思えないので、これは今後の転職にずっとついてまわる点だとは思います。もはやこっちがスタンダードになっていく。

また、実はこの辺の大変さというのは、(特に規模の大きな会社だと)転職者だけが感じることでもない模様です。話を聞いてみると、異動後に同じ部署や日々やりとりする部署の方に、「実は直接会ったことって一回もないんだよねー 笑」っていうケースが結構ありました。

 

では、どうしたか(どうするか)

 

こんな状況で転職した私がどうやって課題を克服していったか、、、というのを本当は書きたかったんですが、まだ書けないんですだ。。なんせまだ1ヶ月そこらなので、成功体験として「俺やったぜ」って、偉そうに言える状態になってない。

なので、自分が心掛けている/いたことや気構えを書いていくことにします。

 

とにかくキーマンの把握

兎にも角にも人間関係。リモートワーク下で組織の構造が見えづらいので、まずは部内外のキーマンの把握に努めてました。

常にデスクトップに組織図を常備し、相談メールやWeb会議やチャットのたびに組織図上の配置を確認。メールならCCのアドレスの方々も確認。文面や発言に現れるニュアンス、話の振られ方、回答スピードなどと合わせて読み解くと、それらの人の立ち位置や重要性や得意不得意がだんだん見えてきます。(会議はともかく、「メール文面」からこれらが読み取れるっていうのは、法務という職種の特殊能力と言えるかもしれません。文章でコミュニケーションをとる経験、相対的に他部署より多いですからね)

 

そして関係構築

リモートワーク下ではただでさえコミュニケーションの機会が減ります。新参者は存在をます示すとともに、「コミュニケーションが取りやすい人」と周りに思われないといけません。

文脈を読んだ丁寧な受け答えに加え、私はメールやチャットの文体まで意識してくだけた明るいものに変えるようにしてます。前職ではまず使わなかったような言葉づかいをしてるので、前職の人が見たら「何かキャラ変わってない?」と思われるでしょう(笑)社内のチャットの雑談チャンネルなんかも活用。

どんなに実績があったとしても、リモートワークの環境で、周りから気軽な声がけを躊躇わせるような権威性は邪魔でしかないです(もともと私そんな実績も権威もある人間じゃないんだけど)。

 

社内規定や手続きルール、マニュアル資料は面倒でもちゃんと読む

社内規定やマニュアルの類は、オンボーディングの研修後必ず時間をとって復習をしてます。

こういったものから得られる情報は、明記されているものだけではありません。その粒度や、どれだけ浸透しているかを見ることで、組織の状況も見えてくる。地味だけど、一度ゼロになった「組織に対する暗黙知」を再構築していくための重要なプロセスです。

また、意外と社内に長くいる人ほど(経験で何とかしちゃうので)この手の資料を忘れていたりうろ覚えだったりするので、これらに詳しい人間って重宝がられ話しかけられやすくだろうなと。信頼残高の積み重ねはこういう細かいところがとっかかりと思っています。 

 

入社前予習が超大事

ただでさえ慣れない環境で、実務をこなしながらこういう地味なことを並行してやっていくと時間が足りなくなります。

私の場合、幸い転職前に有給消化ができたので、転職先のビジネス、当面対応するであろう実務、必要な法令等の予習をみっちりやっておいたので何とかななってます。が、もし「入社してから覚えればいいやー」ってこれをサボってたらと思うと背筋が寒くなります。

 

まとめ

自分で読み返しても、めちゃくちゃ月並みなこと書いてますね。別にコロナ禍あんま関係ないんじゃないかっていう。

でも、きっとそういうものなんでしょう。コロナ渦だからと言って転職という行為が決定的に変わってしまうわけではなく、転職を劇的に上手くいかせるための魔法の杖なんてものも無く、一般論を地味でも心折れずにやっていくしかないと、今のところそう思ってます。

 

あと法務って、前述の「組織を問わず使えるナレッジ」のウェイトが比較的重い職種であることも確かなんですよね。新たな環境にジョインし、キャッチアップすることに結構なエネルギーが必要なのは事実ながら(そして、コロナ渦、リモート下でその必要エネルギーが多少増えてはいながら)、それでも相対的に「転職しても活躍しやすい」職種であるのは間違いないと思います。

世の中の流れが急激に、かつ読みづらくなっていますが、法務人材の流動性が高くあり続け、選択肢にあふれた世界であって欲しいものです。

 

・・・ああ、何とかアップできたよ!

次のバトンはおもて明さんです。

 

法的三段論法はビジネスのコミュニケーションには向かない、という話

今回の記事は、主に新人法務マン向けです。

 

いわゆる「法的三段論法」、法務に携わる人であれば馴染み深いこのフレームワークですが、残念ながらビジネスにおけるコミュニケーションには基本的に向きません。

なぜなら、結論が最後に来るという点で、相手に何かを伝える方法としては効率的でないからです。

 

この話、新任の法務マンにすると、低くない確率で驚かれます。ロー卒だったりするとなおさらのようです。

 

なぜ法的三段論法は効率的でないか

コミュニケーションは、非対称

コミュニケーションというものは、いつだって非対称です。相手は、基本的に、あなたが伝えようとすることを、あなたより知りません。

大事なことなのでもう一度。

その内容がどんなに興味深い内容であっても、どんなにエキサイティングな内容であっても、コミュニケーション開始時において、目の前の相手はそれを知らないのです。

 

さらにもう1点、大抵の場合、相手には、あなたが伝えようとすること以外にも、把握しなければならないことや考えなければならないことがたくさんあります。

要はあなたど同じ程度の時間を、あなたが伝えようとするイシューの検討にかけられない

 

こういう状況下で、導入・前提からつらつらと説明していては、相手は(何の話なの??)となります。興味を失うか、早く結論が知りたくてヤキモキするか、どちらかでしょう。

ビジネスの局面で人に何かを伝えるときは、結論から伝えるのが鉄則です。

 

コミュニケーション時の、ひと手間

とはいえ、法務の検討においては、法的三段論法の型を無視することはおすすめできません。

では、どうすればよいのか。

答えは非常にシンプルで、「検討を行うとき」と、「相手に伝えるとき」で、構成を変えればいいんです。

自分の中で結論を出すときには法的三段論法を使い、相手に伝えるときは内容の構成を変える。イメージ的には下の図のような感じです。

 

これを見逃しがちな新人法務マンは結構多いです。

  

ビジネススクールの出来事

と、偉そうに講釈たれてきましたが、私も、実は人に何かを伝える際に三段論法を使っていました。

昔ビジネススクールの授業で、優れたコミュニケーション(人にものを伝える)手法を例題の数種類から挙手で選ぶことがあり、私は三段論法的例に対して自信満々で手を上げたのですが、、、

 

結果、それは「悪い見本」!

少なからずショックを受けたものです。

 

法務の業界では、判例や論文の記載は基本的に三段論法で書かれているため、どうしてもこのコミュニケーションが最良と思い込んでしまいますよね。

 

コミュニケーションの鉄則、「PREP」

ここまで述べてきた内容は、「PREP」という名称でフレームワーク化されています。

PREPというのは、

  • P = Point(もっとも伝えたい要点、結論)
  • R = Reason(その理由)
  • E = Example(例)
  • P = Point(結論を繰り返す)

という、ビジネスにおけるコミュニケーションフレームワークです。この順を意識することで、相手に伝わりやすいように内容を構成することができます。

 

まとめ

相手に何かを伝えるとき、あなたが考えた順番をその通りに伝える必要なんてありません。せっかく長い時間をかけて頑張って検討したのですから、伝わりづらい方法で伝えるなんてあまりに勿体無い!

最後に一手間かけて、より伝わりやすい形で伝えるようにしましょう。

 

OECD規則とGDPRと個人情報保護法(APPI)

個人情報保護法制大全を購入し、読んでます。

この領域を上流から理解しようとすると、OECDガイドラインが登場します。各国それぞれの規制を個々に理解するのは大変なので、まずは日本の個人情報保護法とGDPRをOECDガイドラインに当てはめてみようと思います。

 

・・・と思って作業してたら、既に個人情報保護委員会のホームページに同じものがありましたね。。

https://www.ppc.go.jp/files/pdf/310118_siryou1-1_betten2.pdf

 

OECD GDPR APPI1
OECD GDPR APPI2

せっかく途中まで作っちゃったので、完成させてブログにアップします。個人情報保護委員会資料に、細々と足しています。ほぼ自身の備忘用まとめですが。

 

GDPRは、5条で基本原則をバシッと定めているので、この基本原則の中にOECDガイドラインの各要素の大半が入ってきてます。

収集・利用等の個人データ処理をひっくるめて「取扱い」という定義をしているので、「収集制限の原則」と「利用制限の原則」双方に、6条以下の「取扱の適法性」等の規定が分類されますね。これらには、「データ内容の原則」や「目的明確化の原則」の要素も入っているように思えますが、そのものズバリな内容とは思えなかったので、この分類表の当該項目からは外しました。

そして、日本の個人情報保護法と比べ、「安全保障の原則」に詳細な規定があるとともに、「個人参加の原則」における個人の権利が手厚いことも見て取れるかと思います。

ここに入れていませんが、欧州代理人やデータ保護オフィサー(Data Protection Officer)も重要な要素ですね。

越境移転についても、言わずもがな。

 

次はアメリカのCCPAや連邦ガイドラインをこの分類に当てはめて理解したいところ。GDPRは個人情報保護委員会のホームページに仮約がありましたが、こちらは原文に当たるしかないのかな。

独禁法務の実践知の総論部分を1枚にまとめてみた

長澤哲也先生著、「独禁法務の実践知」を購入しました。

自分の中でとっ散らかり気味だった独禁法が、総論の読後スッと理解が進んだ感があったので、チャプター1を1枚図にまとめてみました(と言いつつ、企業結合や、取引妨害、優越的地位濫用は1枚にするとわからなくなりそうだったので外してます)。

 

 

記事書くに当たって、はじめは独禁法と5F(ファイブフォース)のフレームワークで1本記事になるんじゃね?と思って考え始めたのですが、次第にハマる範囲が狭い(私的独占部分にしかハマらない)な〜となり、結果的に全然違う内容のアウトプットになりました。

また、画像添付だとSEO的にイマイチだよなーとも思いつつ、これをHTMLで作るほどのスキルはまだないので、もう画像でいいやと(苦笑)

 

当初案が完全に迷子になった形ですが(笑)、5Fと独禁法については何らかでつなげて記事にしたいと思います。

「どこでも社食」をきっかけに、サービスの構成について想像を巡らせてみる

どこでも社食、というサービスがあります。会社近隣の飲食店を社食として利用できる、というサービスです。

飲食店でアプリを見せて手続きすることで、飲食した従業員はお店にお金を払わなくてもよく、代金の精算は会社と飲食店間で済ませられる、というサービスです。一度使ってみましたが、これは確かに従業員としては楽で嬉しい。

 

面白いサービスだと思ったのと同時に、当事者間がどんな仕組みで動いているのか気になったので、色々と考えてみました。一種の思考実験です。

注:以下は、実際のサービスの仕組みを書いたわけではなく、またそれを目的とした記事でもありません。あくまで、サービスをとっかかりとした思考実験です。ご留意の程をお願いします。

 

定義

 

以下で使う用語の定義です。

サービス: 「どこでも社食」のサービス

従業員: サービスを利用して飲食する利用企業の従業員

利用企業: サービスを利用する企業

飲食店: サービスを利用する飲食店

運営企業: サービスを運営する企業

こういうの書かないと何か気持ち悪くなるあたり、法務に染まってるなあと思ったり。

 

誰が、どう飲食店にお金を支払うか

 

まずはこれ。

飲食した従業員は飲食店に直接お金を払わなくていいので、飲食店にお金を支払っているのは誰なのかという点。と言っても最終的にお金を支払うのは利用企業しかいないので、どんな流れ、順番でお金が支払われているのかを考えます。

ですが、その前に、まず考慮に入れたい事項があります。「支払いサイト」の問題です。

 

前提としての、「支払いサイト」

 

飲食店にとって、支払いサイトというのは死活問題です。

※ 詳しく知りたい方は別記事をご参照ください。https://w-transbiz.com/?p=116

 

本来なら現金取引だったのが売掛になってしまうわけですから、ここの支払いサイトが長くなると、飲食店によるサービス導入に大きなハードルになります。

現在、クレジットカードや決済代行利用時の店舗への支払いは半月〜1ヶ月後がスタンダードのようなので、飲食店への支払いサイトは、長くて1ヶ月程度が限度だろうという感触です。

私が運営企業の立場で考えるなら、導入してくれる飲食店を獲得するために、飲食店への支払いサイトは極力短くなるようにサービス設計をすると思います。

 

飲食店への支払われ方の選択肢

 

前置きが長くなりましたが、考えられる選択肢をあげてみます。選択肢は大きく分けて2通りありそうです。

① 利用企業から飲食店に直接お金が支払われる

② 運営企業を通じて飲食店にお金が支払われる

 

2の中の分類として、

②ー1 運営企業が飲食店にお金を先払いする

②−2 利用企業から運営企業にお金が支払われ、その後運営企業から飲食店にお金が支払われる。

が考えられそうです。

 

各選択肢ごとの検討

 

各選択肢ごとの検討に入ります。メリット・デメリットに加え、法務のブログなので、法律構成をどうデザインするかの検討にもチャレンジしてみます。

 

① 利用企業から飲食店に直接お金が支払われる

 

メリット:②−1と比べ運営企業の負担が少なく、②ー2に比べ支払いサイトが短縮化する。

デメリット:②と比べ、運営企業によるサービス利用手数料の取りっぱぐれが起きる可能性(②だと支払いルートの中に入るので、より手数料を回収しやすい)。

この選択肢をとる場合の法律構成

  1. 飲食店は、従業員による飲食時、利用企業による飲食代金の後払いを承諾。
  2. 利用企業は、従業員による飲食時、代金を特定の支払いサイトで飲食店に後払いすることを承諾。
  3. 上記1と2は、飲食店・利用企業がそれぞれサービスに加入すること、従業員がサービスにおいて特定の手続きを行うこと(飲食店で、サービスのアプリの画面で手続き)で、個々の従業員の飲食に対して成立する。
  4. 利用企業は、飲食代金を飲食店に一括支払い。

 

この場合、飲食の契約は誰と誰で成立するかという論点もありますが、

  • 利用企業と飲食店の間として、飲食店は従業員に飲食を提供(第三者のためにする契約)
  • 従業員と飲食店の間として、利用企業が第三者として弁済

があります。これはどちらでも良さそうです。

 

② 運営企業を通じて飲食店にお金が支払われる

 

②ー1 運営企業が飲食店にお金を先払いする

 

メリット:②ー2と比べ、飲食店にとっては、支払いサイトが短縮化するので導入ハードルが下がる。また①と比べると運営企業にとって手数料を回収しやすい。

デメリット:①や②ー1と比べ、運営企業と利用企業間に与信管理が発生する分ハードルが高い。

この選択肢をとる場合の法律構成

  1. 運営企業が飲食店に対して飲食代金を立替払いし利用企業に対して求償するか、飲食店から利用企業に対する債権の譲渡を受ける(飲食店に手数料を課す場合は、その分を控除)
  2. 利用企業は運営企業に代金を一括払い(利用企業に手数料を課す場合は、手数料分がアドオン)

これは、クレジットカード会社によるものと同じスキームです。ただし、割賦販売法の適用を外すために一括払いのみと想定しています。

この場合、飲食店による債権は利用企業に対するものである必要がありそうなので、飲食の契約は利用企業と飲食店の間で成立になると思われます。

 

②ー2 利用企業から運営企業にお金が支払われ、運営企業から飲食店にお金が支払われる。

 

メリット:②ー1と比べ、与信管理のデメリットを追わずに済む。手数料回収については、②ー1と同様。

デメリット:①や②ー1と比べ、支払いサイトが伸びやすい。飲食店にとって導入ハードルが高くなる。

この選択肢をとる場合の法律構成

  1. 飲食店は、従業員による飲食の代金を運営企業に収納委託し、受領権限を与える
  2. 利用企業は、飲食の代金を運営企業に支払委託
  3. 利用企業、ないし従業員と飲食店は、運営企業による収納代行を通じて代金を支払う旨の合意
  4. 上記1〜3は、飲食店・利用企業がそれぞれサービスに加入すること、そして従業員がサービスにおいて特定の手続きを行うこと(飲食店で、サービスのアプリの画面で手続き)で、個々の従業員の飲食に対して成立する
  5. 利用企業は、運営企業に対し代金を一括払い(利用企業に手数料を課す場合は、手数料分がアドオン)
  6. 運営企業は、飲食店に代金を一括払い(飲食店に手数料を課す場合は、その分を控除)

これは、いわゆる収納代行のスキームが使えますね。

 

いろいろな構成が考えられそうですが、メリットデメリットを勘案して選定された構成を実現させるための法的構成を考えるのも、企業法務の面白い点です。

 

手数料の話に若干触れていましたが、誰からお金をとるかというのも、サービスをデザインするにあたっては大事なポイント。長くなってきたのでこの点は後日の記事にします。

法務版 念能力チャートを作ってみる

これもいずれ書きたかった記事。

ハンター×ハンターの念能力チャートの法務版です。法務マンにとって重要な能力を、例のあのチャートっぽく分類してみたいと思います。

法務版念能力チャート 6つの能力

 

⒈ 非言語力

演繹、帰納をはじめとした論理的思考を組み立てたり、推論、計算等をする力。別名「地頭力」。さらに別名「SPIの鬼門」。

法務に限らず、どんな仕事をしていくにあたっても重要な能力。というか、これが高い人はなんの仕事やらせても大抵できてしまう、社会人にとって万能と言っていいくらいの力。

念能力で考えると、たぶんこれが「強化系」。単純に、シンプルに強い。何よりも強く!ただ強く!」。なお、あっちの強化系と違って単純バカではない。

 

実際、これが高い人を目の当たりにすると「勝てんなあ・・・」と思ってしまう。

 

⒉ 言語力

言語化する力。または文献などを読み解く力。

契約書ドラフティング、各種資料作り、社内関係者への説明など、法務マンとしてはとても重要な力。この力が相対的に高い人は法務に向く。逆に低いと、法務マンとしては厳しい。

最近は英語や中国語など外国語力がますます重要になっているが、それもここに含む。ただし外国語ができる=言語力が高いわけではない。英語ができても言葉ができない人は残念ながらごまんといる。

仕事のアウトプットは言語を使って行うものなので、念能力で考えるとこれが「放出系」。

 

⒊ 交渉力

そのものズバリ、交渉力。

相手方(社外であっても、社内であっても)との利害関係を調整し、優先順位を決め、獲得すべきものを獲得するための力。

基本的に交渉は持っている情報が多い方が有利なため、相手に腹の中を探られない振る舞いや、いつどこを譲歩するかの駆け引き、自分サイドの情報をいかに実際より大きく見せるかというある種のハッタリも必要になる。さらに、最後はWin-Winと相手に思わせることも重要。

非言語力同様、これが高い人はどこで何やっても優秀。

 

念能力に当てはめるとこれが「変化系」。非言語力とどっちを強化系にするか迷ったけど、こっちの方が何か「変化系」っぽくないですか?

 

⒋ 調査・検索力

判例や文献などから必要な情報を見つけ、取捨選択していく力。新人法務マンはまずはここから力をつけていくケースが多い。

かつては判例・文献調査ができれば良かったが、今の時代はインターネット検索エンジンを使いこなす力も必要なものとしてここに含まれる。

人の仕事がAIに取って代わられると言われて久しいが、法務の仕事で真っ先にAI化が進むように見えるのがこの力。ただ、「情報に適切にフィルタリングをかけられる力」はいかにAIが発達しても人間のスキルとして必須であり続ける。大事なのは、AIやツールをしっかりと「使いこなす」こと。

念能力に当てはめると、「操作系」か。

  

⒌ 規範化力

規範・ルール化する力。内部統制、危機管理寄りの能力。 

ルール化は単発の案件の処理とは異なり、事象の抽象度をあげた上で幅広いケースに当てはめられるものとして作成する必要がある。これは複数案件の最小公倍数を探っていくようなプロセスであり、単発案件の処理に必要なある種の「突破力」とは反対に位置する能力になる。

この力が高すぎると、逆に個々の案件の処理スピードが落ちる場合がある。状況を俯瞰しすぎてしまうがゆえに、個々の案件の最適解に飛びつくことができない。いわゆる「見えすぎて動けない」状態。羽生善治さんの著書「決断力」で同様のことが書かれていた。

これは「具現化系」で決まり。オーラ別性格診断(神経質)にもぴったり。

 

⒍ マネジメント力

6個目、これくらいしか思い浮かばなかった(後日思いついたら更新するかも)。組織を回し、後進の指導をしていく力。

名選手、名監督に非らず。他の5つの能力がいかに高くても、これが高いとは限らない。ということで、これを「特質系」とする。

 

まとめ

ということで、上記が法務の能力チャート。各能力間の位置関係も、割といい感じに収まった気がします。

上の3つの方面が得意な人はどちらかというと事業法務系、下の「調査・検索力」や「規範化力」方面が高い人は内部統制・コンプライアンス系に向きます。

この場合、水見式はSPIですかね。ただし、見れるのは言語力と非言語力だけ。法務の水見式、誰か作ってくれないだろうか。

 

余談

今回念能力チャートを見返してみて、また現実世界に当てはめる思考実験をしてみて、改めてこのチャートは良くできてると思いました。冨樫先生やっぱりすごい。

なので、早く連載再開して欲しいです。。

景表法の総付景品規制の存在意義は何だろう

この記事、半分、愚痴です(笑)

景品表示法の総付景品規制の意味合いが、個人的にピンときていません。

総付景品規制というのは、景品類の上限を取引価格の20%以内に抑えなければならないというアレですね。どんな業界でも、toCのビジネスをやっていれば避けては通れない規制です。

 

総付景品規制への疑問

総付景品規制の疑問点、主に以下によります。

 

景品類の付与は、事業者にとって「やったもん勝ち」ではない

まず、景品類の付与は、それ自体で消費者が損をすることはありません。「景品類の付与」という事象だけ見れば、消費者にとってはメリットです。

逆に、景品類の付与は事業者にとってはコストです。各事業における利益の最大化のために行われることなので、無制限に行われることはありません(でないと、単なる慈善事業です)。

したがって、総付景品の付与は、規制がなくても、個々の事業者において適当な範囲に自然と収まってくるはずです。

 

不当廉売や抱き合わせ販売は、景表法の規制範囲ではない

そして、これです。

体力のある事業者とそうでない事業者では限度が異なるため、総付景品上限を無制限にすれば弱小事業者は淘汰されてしまう、結果、長期的に見れば公正な競争が阻害されて、商品の価格が下がらず、消費者にとっては害になる、

景品表示法は独占禁止法の特例法なので、こういうロジックがあることはよくわかります。

 

でも、「増量値引き」や「セット販売」にした途端に、総付景品規制の適用はなくなっちゃうんですよね。

その場合、問題になるのは独占禁止法の不当廉売や抱き合わせ販売になるわけですが、これらは基本的に競争阻害性が発生しなければ独禁法違反にならないとされています。一律の金額のラインを超えるか超えないかだけで判断する総付景品規制と比べて、ずいぶん結論に差があります。

ちょっと売り方や訴求を変えただけでこれほど結論に差が生じてくるのは、実務やっていて非常に違和感を感じます。

 

景表法の他の規制に比べて、総付景品規制は浮いている?

表示規制の存在意義は明白です。

こちらは景品と違い、消費者にダイレクトにデメリットが及びますので、ストレートに消費者保護の観点で規制の必要があります。そうでなければ、事業者にとっては、まさに「やったもん勝ち」の世界になってしまいます。

 

一般懸賞の存在意義、これもよくわかります。

一般懸賞に上限規制がなければ、もはやギャンブルです。仮に個々の消費者の利益をスポットで害さないとしても、社会的な利益を明らかに害します。お金を賭けて麻雀を行うのが違法なのと、考え方は同じですね。

・・・例えとして賭け麻雀を持ち出したのに、深い意味はありませんよ(棒読み)。

 

絵合わせ規制、これは景品規制の一環ではありつつ、その実態は表示規制に近いものなので、これも存在意義はわかります(それが改めてはっきりしたのが、「コンプガチャ」でした。詳しく書くとめちゃくちゃ長くなるので、またいずれ。)

これらの規制に比べ、総付景品規制は、明らかに浮いているように見えてしまいます。

 

事実、海外の国々を見ても、表示に関する規制は当然のようにあり、また懸賞に関する規制もしばしば見受けられますが(シンガポールなど、一部の国は日本と比べても厳しめの規制があります)、総付景品を規制する規制はまだ見たことがありません。

 

まとめ

総付景品は、景品表示法による金額ラインでのシロ・クロではなく、独占禁止法により競争阻害性の要件をつけて規制する方が良いのでは、と思います。

範囲が不要に広くなりすぎる規制のために事業者(多くは法務担当者)がコストとパワーをかけているという実態は、経済成長のために健全とは思えません。

いろんな意見あると思いますが、私は見直し対象にしてよい規制だと思います。

ブランド価値、ブランド既存リスクって何だろう。法務観点から考える。

法務部員が、事業部門とともに契約書や事業スキームのレビューをする際によく出てくる言葉が「ブランドリスク」や「ブランド毀損リスク」です。

例えばスキームに法的にグレーな点があった場合に、「法的リスクがありますし、さらにブランド毀損のリスクもありますよ」とか。

 

この言葉、打合わせや会議で本当によく聞くのですが、どうも「法令遵守リスク」→「ブランドリスク」・「ブランド毀損リスク」→「大変!」と、言葉だけが一人歩きして、抽象的に使われているケースが多いように感じます。

抽象的な概念に留まっていては、リスクとリターンをしっかり判断することができません。何とかもっと具体的に、せめてリスクリターンの判断がしやすいように整理できないかと考えているのですが、今日はそれを頑張って言語化してみたいと思います。

 

ブランドってなんだろう

まずは「ブランド」という言葉の定義から考えてみたいと思います。ここでは、私がこれまで読んだ書籍中のブランドへの言及から、2点挙げます。

まずはこちら。

ブランディングとは、消費者の頭の中に「選ばれる必然」を作ること。

USFを劇的に変えたたった一つの考え方(森岡 毅 著)

ブランドそのものの定義ではないですが、要は消費者の頭の中の「選ばれる必然」こそがブランドということですね。

 

次にこちら。

「しかし、ここで視点を変えてください。ブランドがあるからこそ、お客様がその企業の商品を買ってくれ、売上が上がるのです。つまり、結果的に、フリーキャッシュフローが生まれるわけですね。そう思えば、企業価値には、そのブランド価値がちゃんと反映されていることがお分かりいただけると思います。ブランド価値が反映されているフリーキャッシュフローから算出された事業価値に、ブランド価値を加えてしまったのでは、それこそ、ダブルカウントになってしまうわけです。」

ざっくりわかるファイナンス(石野 雄一 著)

ブランド価値は、企業(事業)価値に含まれるのであって、別箇独立に存在するわけではないということです。これは非常に重要だと思っています。

言い換えると、「ブランドリスク」は、基本的に、「キャッシュフローに影響するリスク」と別で存在するものではありません。ブランドリスクを、「何か得体の知れないもの」として扱う理由は基本的にはありません。

  

  • 「消費者の頭の中の選ばれる必然性」がブランド
  • それは、「キャッシュフローに影響するリスク」と別個に存在するものではない

というのが、ここまでの整理です。

 

選ばれる必然性って何だろう?

「消費者の頭の中の選ばれる必然性」とは何でしょうか。

、、、といっても、ファストファッションブランドで買う靴下と、ハイブランドで買うジャケットでは、求めるものが違うのは、明らかですよね。

以下ではこれをもう少し構造的に整理します。

 

商品には、「コア」、「形態」、「付随機能」という要素があります。

「コア」は商品の機能的価値そのもの、「付帯」はパッケージ、品質、所有することでの差別化・満足感など、機能的価値プラスアルファの付加価値、「付随機能」はアフターサービスや保証などの、商品の付加的要素です。

これらのどの部分が「選ばれる必然性」になっているかは、商品により異なります。この点を考えるに際して、商品にはいくつかの分類の仕方があります。

 

耐久財すぐ消費されるもの食品や飲料、化粧品など
非耐久財消費せず、継続して使うもの服、家具、家電など
サービス無形のサービス保険、運送、移動など

に分ける考え方、

 

最寄品日常頻繁に購入するもの食品、飲料など
買い回り品通常、いくつかの製品を比較検討して
買うもの
服や家具など
専門品高級品、趣向品など、吟味して買うもの車、ブランド品など

に分ける考え方などが代表的です。

 

先ほど、靴下とジャケットの例を出しましたが、

  • 最寄品かつ耐久財(考え方によっては非耐久財)である靴下は、主にコアと安さで選ばれる
  • 対して、専門品かつ耐久財であるハイブランドジャケットは主に付帯(差別化意識)で選ばれる

ということができます。

 

リーガルリスクとブランド毀損リスクはイコールではない

徐々にまとめに入っていきます。

 

何らかのリーガルリスクの顕在化時に、その商品の「選ばれる理由」が毀損してしまうリスクは、ブランド毀損リスク「も」高いと言えます。

例えば、「環境に優しい」ことが選ばれる理由として浸透し、成功している洗剤があったとします。この商品の製造過程において、もし産業廃棄物の処理が適切に行われていなかったとしたらどうでしょう。

法令に基づくペナルティを受けるにとどまらず、消費者に選ばれる理由の一つが消えてしまいかねないわけですから、ブランドに与える影響は非常に大きいといえます。商品の売上が減少し、将来のキャッシュフローに大きなダメージを負ってしまいかねません。

 

逆に、特定のリーガルリスクが顕在化しても、その商品の「選ばれる理由」に特に影響がない場合は、リーガルリスクは負っていてもブランド毀損リスクはそれほど高くないことになります。

例えば、価格が安く、身近なお店でどこでも買えることが選ばれる理由となっているお酒の商品があったとします。この商品のラベルのデザインが第三者の知的財産権を侵害していたとしても、侵害相手から損害賠償を受けるかもしれませんが、商品が選ばれる理由自体には大きな影響はなく、将来のキャッシュフローに継続的にダメージを負う可能性は低そうです。

もちろん、こういうのは起きない方が望ましいのは間違いないですが、少なくともリーガルリスクとブランド毀損リスクを混同すべきではなく、分けて考える必要がありますよね。

  

まとめ

法務の発する「ブランド毀損リスク」という言葉は、事業部門にとってみれば、こちらが思っている以上のインパクトを与えがちです(要は、必要以上にビビらせてしまいます)。

ビジネスはリスクを取ってリターンをあげる活動である以上、リスクについてミスリーディングを起こさない/起こさせないことを意識したいところ。

そのためには、丁寧に言語化して考えることが大事です。