2020年に読んだ本を振り返る

今年最後の記事になる予定です。

他のブロガーさんがやってていいな、と思ったテーマ。今年読んだ本から特に印象残っている本を挙げて、今年を振り返ってみます。半分以上、自分のための備忘記事だな。

ちなみに、法律書、実務書の類は外してます。

 

USJを劇的に変えたたった一つの考え方(森岡毅)

 

マーケティングに対する理解を深めたくて読んだ本。

「マーケティングとは、需要者の頭の中に選ばれる理由を作ること」など、シンプルで理解しやすい言葉でマーケティングが説明されており、マーケティングの概要をつかみたい人にとてもオススメ。

そしてそれ以上に、「戦略とは、何を捨てるかである」という戦略論が、これまで読んだどんな戦略本よりも腹落ちした。

ちなみに同時期に「PIXER」も読んでいたのだけど、USJのアプローチが「売れるものを作る」であったのに対し、ピクサー社のアプローチは「作りたいものを作る」。この対比がとても面白い。一般的には前者が正解で再現性も高いのだとは思いつつ、世の中をひっくり返すのはいつだって後者の人たちなんですよね。

 

ざっくりわかるファイナンス

 

マーケティングに続き、ファイナンスの基礎を理解したくて手に取った本。これがKindle unlimitedに落ちてるとか、神すぎる。

 

経営者の使命は企業価値を最大化することで、そのためにはWACC(加重平均資本コスト)を下げつつWACC以上のROICを上げる必要がある、

ではWACCを下げるためには何をする必要があるか、その観点で内部統制機能の一部である法務が果たすべき役割は? ここからつなげて内部統制に興味が出てきて「経営の技法」や「世界一わかりやすいリスクマネジメント集中講座」などの本に手を出していった。

 

ファイナンス起点で、自分の企業人としての視野をだいぶ広げてくれたと言える本。この本と上述のUSJマーケティング本を参考に、今年ブランドマネジメントに関する記事を1本書いたっけな。

 

危うく一生懸命生きるとこだった(ハ・ワン

 

「生きづらい時代になってるよね、もっと気楽に行こうよ」という、メッセージとしては手アカがついた内容。だけど、日常の出来事やそれに伴う心の動きの描写など、エッセイとしての解像度がとても高く、ユーモラスで思わず肯いてしまう描写にあふれている。

 

そもそも、やる気がなくたってかまわないだろう。やる気がなくても十分働ける。好きでやる仕事もある一方、ほとんどはお金を稼ぐためにある。労働の対価としてお金を受け取っているのだ。

それなのにやる気まで要求されるなんて、会社はちょっと欲しがりすぎじゃないか。湧き出しもしないやる気を無理に作り出すこと自体がストレスだ。

ハ・ワン「危うく一生懸命生きるところだった」

これとか、控えめに言って最高じゃないすか?

 

この手の本は抽象的でフワフワして説得力に欠けるものばかりだったけど、これは違う。疲れた心をスッと癒してくれる、休暇のタイミングで毎回読み直したい本。

ちなみに著者は韓国人のイラストレーター。現代がストレスフルなのは、どこの国も同じなんですね。

 

交渉力(橋下徹)

 

交渉術に関する本は「ハーバード流交渉術」や「武器としての交渉思考」など何冊か読んだのだけど、一番しっくりきたのがこの本。

交渉は①譲歩する②脅す③お願いするの3種類しかなく、「譲歩と要求のマトリクス作り」と「そのための内部の利害調整」が交渉のエッセンスのほぼ全てという橋下さんの主張は、BATNAやZOPAを定義する科学的なアプローチとは正反対に感じるものだが説得力があった。

実際、何が双方のBATNAなのかが交渉時点でわかっているケースなんて、国家間交渉のように情報収集にめちゃめちゃ時間とコストかける例ならともかく、我々が日常接している交渉局面ではほとんどないだろうし。

 

「最後はWinーWinで終わること」も重要。というかこれについては本書含めどんな交渉本にも書かれているので、交渉の最重要ポイントはきっとここなんでしょうね。

 

最軽量のマネジメント(山田理)

 

革新的な組織運営で知られるサイボウズ山田理さんの著書。確かマネジメントに悩んでた時期でしたかね、手に取ったのは。

 

「過去のマネージャーを権威づけていたのは(能力よりむしろ)「情報」で、情報を集約、独占できていればマネジメントは成り立ってしまっていた」

この言及で、年配の方々が役職とエラさを結び付けて考えがちな理由、そしてそれがもう通用しないということがよくわかった。こうやって言語化されると理解が深まる。これじゃあ、年配者の「マネジメント論」は今の若手管理職にはなかなか響かないよな。

 

マネージャーの負担と心労は、この環境下もあり過去最大級になっていると感じる。マネージャーは「管理」ではなく「場造り」を自分の最大のタスクとして位置付けると共に、役職と権威を切り離すことが必要なんだろうな。

あと、この本出版されたの2019年11月なんだけど、まさかその時は1年後に働き方がこれだけ変わってしまうなんて、誰も想像してなかったでしょうね。

 

中間管理録トネガワ 10巻 

 

漫画と侮ることなかれ、これは個人的には漫画ではなくビジネス書といって良い。上司とは、部下とは、チームとは、働くとは、人生とは。サラリーマンの悲喜交交がこれでもかと詰まった作品は、第10巻で大団円。

 

原作的にトネガワにはバッドエンドしか待っていないのだけど、ギャグを交えながらも綺麗にまとめた最終2話は、サラリーマンなら涙なしでは読めない。

あと、利根川やその部下たちの奮闘を見てると、カイジたちが糞野郎にしか思えなくなります。鉄骨渡りで利根川が語る「2000万円」の価値のくだり、説得力が数十倍増に見えてきて、利根川という男に対する印象が180度変わってくるのが面白い。

 

鬼滅の刃 1〜23巻(吾峠 呼世晴)

 

 

これも漫画だけど、今年はこれに触れないわけにはいかない。ついに映画も日本の歴代最高興収を塗り替えてしまった。

 

物語の内容や評価は世の中の様々な記事に譲るけど、個人的には漫画単体での評価は過去の数多の名作と比べものすごく優れているとは思わない。この作品をここまで押し上げたのは、やはりアニメの存在じゃないだろうか。原作に加え、作画、声優、主題歌、全てが化学反応を起こした至高の作品。

 

コロナ時代の僕ら(パオロ・ジョルダーノ)

 

今年を象徴する一冊ということで、これも入れておく。

 

コロナ第一波時のイタリアの状況は記憶に新しいけど、そんな中で、数学的思考を交えながら、淡々と冷静に論理的に状況を考察するエッセイ、、、

と思いながら本文を読み終えると、あと書き部分の記載が強い印象を残す。心の中の不安に潰されそうになりながら、強い心で冷静さを必死で保つ筆者の姿が頭に浮かぶ。

 

僕は忘れたくない。家族をひとつにまとめる役目において自分が英雄的でもなければ、常にどっしりと構えていることもできず、先見の明もなかったことを。必要に迫られても誰かを元気にするどころか、自分すらろくに励ませなかったことを。

パオロ・ジョルダーノ「コロナ時代の僕ら」

 

個人的にこの本の価値は、あと書きにあたる「コロナウィルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないこと」に集約される。毎日感染者数だけドンと出して世間を煽るマスコミと、それを見て右へ左へ大騒ぎする一部の人々は、みんな課題図書としてこれ読むべきなんじゃないかな。

 

幻のアフリカ納豆を追え(高野秀行)

 

有給消化期間中、「旅行も行けんし、、、」ということで選んだ本。

アフリカの辺境に納豆を探しに行くのみならず、世界各国の納豆菌を集めた納豆菌ワールドカップを開催するなんてこの著者しかできない。「誰も行ったことがないところに行き、誰もやったことのないことをやり、それを面白おかしく書く」というこの人のモットーが炸裂している一冊。

日常を離れて異文化トリップができる。高野本が初めての人は、「謎の独立国家ソマリランド」から入るのが個人的におすすめです。

 

こんなところかな。来年は読んだ本の感想を都度まとめて、年末サクッと記事化できるようにしておこう(反省)

コロナ禍で法務マンが転職するということ

今回の記事は、初めて参加させていただいた#裏legalACの記事です。ちざたまごさんからのバトンです。

初の参加ということでテーマ悩んだのですが、今年自分が書くとしたらこれしかなかろうと。私、今年末に転職してます。法務職がコロナ化で新しい組織にジョインしてみた結果、所感を書くことにしました!

 

法務が転職するということ

 

法務というのは、日々正解のない仕事に取り組む仕事です。その際に拠り所になるのは、法律に関するナレッジだけではありません。その組織で重ねた経験というのが、大きくモノをいいます。

私たち法務は、「組織を問わず使えるナレッジ」と、「組織内での経験で積み重ねた何か」を武器として日々業務を行っているわけですが、転職により後者は失われます。

この「組織内での経験で積み重ねた何か」をさらに分類すると二通りあり、①「組織に対する暗黙知の積み重ね」②「組織における信頼残高の積み重ね」であると考えてます(というか、転職前後のタイミングで改めて言語化してみて実感するに至りました)。

①「組織に対する暗黙知の積み重ね」とは、組織における空気感・人間関係・キーマン・ルール・コンテクスト・仕事の進め方などの理解がこれにあたります。一つの組織である程度年数を重ねると、認識していなくてもこれらはついてきますが、新しい組織では一つ一つ確認また確認の繰り返しでその度手を止めなければなりません。もう、毎度毎度「左右を確認して手を挙げて横断歩道を渡ってる」ような状態になります。

②「組織における信頼残高の積み重ね」は読んでそのまま、貢献を続けることでの信頼感です。これも重要で、これがあるから一定程度自分の中での検討や対外的な説明を端折ることができ、自分のリソースの選択と集中をしやすくなります。

転職をすると、これらは一旦ゼロからのスタートになります。従って、どれだけ法的知識があっても、業務における判断の大胆さ、スピード感というのは大きく、本当に大きく失われます。もう当たり前のことなんですが、なぜそうなるかをちゃんと言語化して理解するまでは結構凹みました。あれ、俺こんなに仕事できない人だったっけ、みたいな。

 

あと、地味に苦しいのが組織によって業務ツールが全然違っていることね。バックオフィスだからこそ、長時間触ることになるツールって大事。メールからチャットからストレージから全部変わってしまい、ツールの設定や慣れる作業で日々の時間が取られていくのは結構キツかった。前述の点と合わせて、最初は自己嫌悪が凄かったです。

 

コロナ渦で転職すると言うこと

 

会社にもよりますが、今の世の中多くの企業がリモートワークに舵を切っています。私の転職先も大半の人がリモートワーク中のため、自分の部署、他の部署ともオフィスに人がいません。もちろん時期的に歓送迎会の実施も難しい。

この状況だと、平時に比べ、組織に対する暗黙知は得づらくなります。パッと隣の席の人に聞けばよかったことを聞くためのアクション(メール打ったり、チャット打ったり)が増え、組織のコンテクストや空気感も把握しづらいです。暗黙知って座学やマニュアルだけで学ぶものではなく、オフィスで周囲から聞こえてくる立ち話に聞き耳立てたり、食事や飲み会のフランクなコミュニケーションで培っていく部分も大きいんですが、それがない(もしくは大きく減る)というのが苦しいポイント。

暗黙知が得づらいと、信頼残高の獲得スピードにも影響します。

今ではイケてない文脈で語られることが多い「シマごとに固まった座席」、「喫煙室での雑談」、「飲みニュケーション」、人が組織に馴染むという意味では、あれはあれで一定の価値はあったんだなーと遠い目で考えてしまいますね。

 

法務がコロナ渦で転職するということ

 

まとめると、コロナ化での法務の転職は、暗黙知や信頼残高が重要な職種が、それを得づらい環境で転職するということなので、キャッチアップには結構なエネルギーが取られます(解ってたことだったけども)。

ただ、上記で「平時」と書きましたが、これからの時代の働き方がコロナ前に戻るとは全く思えないので、これは今後の転職にずっとついてまわる点だとは思います。もはやこっちがスタンダードになっていく。

また、実はこの辺の大変さというのは、(特に規模の大きな会社だと)転職者だけが感じることでもない模様です。話を聞いてみると、異動後に同じ部署や日々やりとりする部署の方に、「実は直接会ったことって一回もないんだよねー 笑」っていうケースが結構ありました。

 

では、どうしたか(どうするか)

 

こんな状況で転職した私がどうやって課題を克服していったか、、、というのを本当は書きたかったんですが、まだ書けないんですだ。。なんせまだ1ヶ月そこらなので、成功体験として「俺やったぜ」って、偉そうに言える状態になってない。

なので、自分が心掛けている/いたことや気構えを書いていくことにします。

 

とにかくキーマンの把握

兎にも角にも人間関係。リモートワーク下で組織の構造が見えづらいので、まずは部内外のキーマンの把握に努めてました。

常にデスクトップに組織図を常備し、相談メールやWeb会議やチャットのたびに組織図上の配置を確認。メールならCCのアドレスの方々も確認。文面や発言に現れるニュアンス、話の振られ方、回答スピードなどと合わせて読み解くと、それらの人の立ち位置や重要性や得意不得意がだんだん見えてきます。(会議はともかく、「メール文面」からこれらが読み取れるっていうのは、法務という職種の特殊能力と言えるかもしれません。文章でコミュニケーションをとる経験、相対的に他部署より多いですからね)

 

そして関係構築

リモートワーク下ではただでさえコミュニケーションの機会が減ります。新参者は存在をます示すとともに、「コミュニケーションが取りやすい人」と周りに思われないといけません。

文脈を読んだ丁寧な受け答えに加え、私はメールやチャットの文体まで意識してくだけた明るいものに変えるようにしてます。前職ではまず使わなかったような言葉づかいをしてるので、前職の人が見たら「何かキャラ変わってない?」と思われるでしょう(笑)社内のチャットの雑談チャンネルなんかも活用。

どんなに実績があったとしても、リモートワークの環境で、周りから気軽な声がけを躊躇わせるような権威性は邪魔でしかないです(もともと私そんな実績も権威もある人間じゃないんだけど)。

 

社内規定や手続きルール、マニュアル資料は面倒でもちゃんと読む

社内規定やマニュアルの類は、オンボーディングの研修後必ず時間をとって復習をしてます。

こういったものから得られる情報は、明記されているものだけではありません。その粒度や、どれだけ浸透しているかを見ることで、組織の状況も見えてくる。地味だけど、一度ゼロになった「組織に対する暗黙知」を再構築していくための重要なプロセスです。

また、意外と社内に長くいる人ほど(経験で何とかしちゃうので)この手の資料を忘れていたりうろ覚えだったりするので、これらに詳しい人間って重宝がられ話しかけられやすくだろうなと。信頼残高の積み重ねはこういう細かいところがとっかかりと思っています。 

 

入社前予習が超大事

ただでさえ慣れない環境で、実務をこなしながらこういう地味なことを並行してやっていくと時間が足りなくなります。

私の場合、幸い転職前に有給消化ができたので、転職先のビジネス、当面対応するであろう実務、必要な法令等の予習をみっちりやっておいたので何とかななってます。が、もし「入社してから覚えればいいやー」ってこれをサボってたらと思うと背筋が寒くなります。

 

まとめ

自分で読み返しても、めちゃくちゃ月並みなこと書いてますね。別にコロナ禍あんま関係ないんじゃないかっていう。

でも、きっとそういうものなんでしょう。コロナ渦だからと言って転職という行為が決定的に変わってしまうわけではなく、転職を劇的に上手くいかせるための魔法の杖なんてものも無く、一般論を地味でも心折れずにやっていくしかないと、今のところそう思ってます。

 

あと法務って、前述の「組織を問わず使えるナレッジ」のウェイトが比較的重い職種であることも確かなんですよね。新たな環境にジョインし、キャッチアップすることに結構なエネルギーが必要なのは事実ながら(そして、コロナ渦、リモート下でその必要エネルギーが多少増えてはいながら)、それでも相対的に「転職しても活躍しやすい」職種であるのは間違いないと思います。

世の中の流れが急激に、かつ読みづらくなっていますが、法務人材の流動性が高くあり続け、選択肢にあふれた世界であって欲しいものです。

 

・・・ああ、何とかアップできたよ!

次のバトンはおもて明さんです。